漆芸・随感【 山本瓔子・詩のギャラリー公式サイト】


漆芸 2006/3/5

漆芸とは漆の芸術のことである。

私の詩集「一万回のありがとう」の出版の時、編集部から、詩画集にしたいという申し出があった。
誰と組み合わせるか考えて欲しいということで、提示された絵が「漆芸」と「アルルカン」だった。

「漆芸」といっても非常に範囲は広く、技法は多彩である。
候補に挙がっていたのは、黒地になめらかな金蒔絵で、草花を描いた古くからの表現方法によるものだった。

それがどのページを開いても同様な絵が並んでいる。どのページも黒地で、単一な細い葉っぱが描かれ、大きくない花がちりばめられていた。
そして短冊や色紙のように区切られた世界が、斜めにはめ込まれたり、縦に置かれたりして、変化のような物をつけようとしているのは、編集部の工夫なのかもしれない。

めくってもめくっても同じような絵というのは、詩集の場合は向かない。
いや、殆ど目に入らないと言う意味では、いいのかも知れないが、想像を引き出す手助けはしてくれない。

それより「アルルカン」のほうがましかも知れない。
アルルカンというのはフランス語で道化役者のことである。つまりピエロのことだ。
おどけたかぶり物の下には、どんな人生が隠されているのか、それは見る人の想像に任せられている。
自らの生活、若しくは思いによって、詩の受け止め方は千差万別。読む人の数だけ詩の解釈が存在することを考えたら、まさしくアルルカンは詩集にぴったりかもしれない。
衣装もページごとに替わっているし、背景もさまざま。それよりカラフルな色遣いがいい。

元来、私はアルルカンは、そんなに好きじゃない。もっと候補はないかと聞いたが、二つから選んでくれということだったので、アルルカンにして、私の詩集は「漆芸」とは程遠いものとなった。

その翌年、福井県国民文化祭の中で、合唱組曲を提供し、華やかな発表の場に臨んだ。
次の日、折角福井まで来たのだからと、知人が鯖江市の蒔絵工房へ案内してくれた。

それは福井県の工芸作家協会会長、松田眞扶(さなお)氏の工房だった。
氏は蒔絵伝統工芸士、であり蒔絵一級技能士である。

ここでまた「漆芸」に再会する。
それは実に目を見張る作品の群れだった。
展覧会から帰って来たばかりという、松田眞扶氏の作品群とご子息の作品群を、見せていただいた。松田氏自らの手で。
松田氏はその静かな口調で熱く語ってくれた。
それは殆どが蒔絵の文庫で、並はずれた技量が感じられる名品ばかりだった。
琳派風の豪快なものではなく、繊細にして華美、吸い込まれるようなあでやかさは、私の好みと一致している。
氏と話し込み、あっという間の1時間が過ぎ去った。列車の時刻がなかったら、いつまでお邪魔しただろう。

その1ヶ月後の昨年11月、私は三度「漆芸」に遭遇することとなった。
今度は銀座4丁目の交差点、和光ビルのウィンドウ。そこに私の目と足は釘付けになった。
「山河大海」と銘打った、雄大な霊峰富士の夕映えを描く50号程の漆の大作品だった。
漆による絵画で、こんなに大きな作品が存在するということが、まず驚きであると共に、なんともいえない日本画の風情と洋画の趣がミックスされて「エッ」と全身を掬われた思いがした。

見ると「並木恒延漆芸展」とある。会期はまだ先だ。
私は先を急いでいたので、その場はそれで終わった。

数日後、私は気になっていたその展覧会が、いつだったろうかと、和光ビルへ出向いた。
すると、なんとその日は、幸運にも展覧会の初日だった。

和光ホールの漆芸展会場へ入って驚いた。
大通りのウィンドウの絵を更に上回る、大変なショックを受けた。

ミニチュアから100号程まで、数十点、がずらりと並ぶ。
富士山、水辺、月景色、林の光景、雪景色などなど。
蒔絵や螺鈿、卵殻、金粉の技法をふんだんに用い、絵画的に表現する多様さは目を瞠るものがある。
漆のイメージとは異なるというか、覆したというか、その風景の場に置かれた自分を感じた。

風の音、波の音、翡翠(かわせみ)の鳴き声が一瞬止んだ瞬間の静寂、雪の降る林のかすかな音、木立の奥から聞こえる沸き立つような風の音、
などがこれらの絵から感じられる。
何よりも白を使わなくても、雪や霧を感じさせるのだ。

蒔かれた金粉が朧な世界を映し出し、満月の姿はあたかも時空を超えた彼方から、見る者に語りかけてくる。

白蝶貝の裏に箔を貼ることで、あでやかなソメイヨシノを描く。

きらめく陽光や白銀の世界は、金箔やプラチナ箔で現すということだ。
ウズラの卵殻を使ってぼかしを入れる。
並大抵な作業ではない。芸術を創り出している光景を思っただけで感動がじわりと胸を打つ。

熱心に一つずつを眺めていたら、会場の女性が丁寧に説明してくれた。

「並木恒延氏」改めて作者を読む。芸大をでてかなり活躍している。審査員とか総理大臣賞を得ている。
会場の一隅で人と話し込んで居られた方がそうだなと思う。
芳名帳に名前を記して、去りがたい余韻を味わいながら、会場を後にした。

後日、美しい丁寧なお礼のハガキをいただいた。
次回の個展は日本橋三越と書いてある。
いまから密かに楽しみにしている。

ひょんなことから縁ができた漆芸は、私の中で、次第に大きくふくらんでいる

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